雨後の筍


梅雨だ。最近、タケノコが生えてきている。

いわゆる春に出てくるタケノコではなくて、例年梅雨時期に出てくる「はちく」という種類の竹。「破竹の勢い」のはちくではなくて、「淡竹」と書くのだそうだ。これはおいしい。

先日、雨のあとにほんとに出てきたので4つ収穫して、バイト先に持って行って自分のまかないにして食べた。そうしたら固くて全然食べられなかった。よく見たらもう竹になっていた。それをラジオで言ったらそんなことも知らないのかとMCのアナウンサーの方々にウケた。よかった。

 

竹で思い出すことがある。

僕が銀杏BOYZに入ったころ、実家のある埼玉県所沢市の航空公園野外音楽ステージで、2回行ったフェスがある。僕ともう1人、今は作曲家として活躍する阿部海太郎くんと2人で主催した“SOUL JERK”という名前のイベントで、地元の友達や音楽のつながりで力を借り、準備していった。

「きっとぴったりだ」と思ってなぜか銀杏BOYZのドラムの村井守くんに舞台監督をお願いしたのだけど、それは当然専門違いだったわけでタイムキープもめちゃくちゃになってしまった。僕の失敗。楽屋には演者の方々に楽しんでもらいたいとビールサーバーを用意したけどあっという間に空になってしまった。いいも悪いもひっくるめて、本当に「手作り」だった。

YOUR SONG IS GOOD、toe、Oi-SKALL MATES、メガマサヒデ、曽我部恵一BAND、SAKEROCK、そして吾妻光良&THE SWINGING BOPPERSというすごいメンバーが出てくれて、2回合わせて3000人以上の人が来てくれたお祭りとなった。

 

この2回目を準備しているときに「なにか面白いことできないかなあ」としばらく考えていた。うーん。

会場のイメージをしていると、すり鉢状の構造が突然、ひらめきを運んでくれた。日比谷野外音楽堂のそれよりも強めに見えた傾斜――。

 

「流しそうめんだ」

 

夏の暑いフェスでそうめんが会場を流れていたらきっと楽しそうだ、とふと思ってしまった。客席の上から下まで、バカバカしいほどの長さで。

フェスの実行委員になってもらった地元の同級生にさっそく相談した。彼はいま国土交通省の人だ。

かくかくしかじか。面白い。竹がいるねえ。僕が担当するよ。

そういって思いのほかノリノリで請け負ってくれた。埼玉県所沢市はシティなので僕は竹が生えている実際のところを見たことがなかった。流しそうめん自体も、したことがなかった。テレビで見るだけのただの想像だった。

 

竹が手に入れば…‥。

 

「手配できたよ」

 

開催を間近にひかえた頃、同級生はこう軽く答えてくれた。す、すごい、どうやって…。

 

「ネットで調べていろいろ当たってさ、結局高知県から送ってくれることになったから」

 

任せろよ、と。頼もしすぎる。会場を測ったらたしか20m以上の長さが必要だったはず。脚となる材料も必要で、それも竹で組んでくれるそうだ。それにしても高知から?どうやって送ってくれるんだろう。

 

当日、舞台上の設営が進むあいだ反対方向の客席側で、それはそれは見事なサイズの、壮観な「流しそうめんコースター」が設置完了していた。バカバカしいほどの長さだった。

 

ソールドアウトした会場が開演だ。熱いステージが繰り広げられ、転換時にはMU-STARSのDJが躍らせてくれる。そのとき、そうめんコースターには人が群がっていた。

「そうめんが足りない!」

裏で怒号に近い声が響き渡っていた。

大人も子どもも楽しい流しそうめん。どうやって水の流れや薬味やそうめんを用意してくれたのだろう。

僕は全体の流れでテンパっていたので、全然ちゃんと見られていないのが悔やまれる。もしかしたら記憶が変わっているかもしれないので現場にいた方はご指摘ください。

とにかく、ふたを開けたら大盛況だった。

 (写真は家でやった流しそうめん)

 

竹がありふれていて、むしろ厄介がられている周防大島の今の生活圏からみると、とても不思議な出来事だ。

 

 

さらに大事なことが続く。2回とも出演してくれた吾妻光良&THE SWINGING BOPPERS。流しそうめんの日のSOUL JERKではトリを務めてくれたのだが、その際に披露してくれた曲があった。

「150~300」という曲だ。ライブ中のMCで説明があった。

 

「前回このイベントに出たときに、スカのバンドばっかりだったのでスカの曲ができました」

 

このようなことを吾妻さんがいうないなや、長調の軽快なピアノのベースラインから曲がスタート。

生活の不条理や理不尽が積み重なっていく歌詞とアンサンブルは、ついにサビのハイライトで

 

「俺の血圧、150から300」

 

と歌われる相当楽しいナンバーだった。まさかイベントをきっかけに曲が生まれるなんて。そんなことがあるのかと舞台を見ながら泣いた。

この曲はのちにCDとレコードに収録された。

 

今、その曲は息子と娘も大好きな曲。息子は物心ついたころから歌っている。

「おれのけちゅあちゅ、ひゃくごじゅうからさんびゃく~」

んなバカな。

 

 

YOUR SONG IS GOOD(以下YSIG) の20周年ロングインタビュー・Part2後編に、図らずも当時のフェスのことがちらっと触れられていて、やってよかった、やれてよかったと胸にこみ上げてきた。

 

そして今度、6月27日(月)の夜に「偶然と音楽」というトークライブを開催する。

 

このコラムの前々回に書いた、森田真生さんとキセルの辻村豪文さんとの関わりが芽吹いていく。これもやっぱり全く計画をしていなかったことだ。

キセルはカクバリズムに所属している。カクバリズムは、YSIGが創立のきっかけとなったという(同インタビューPart2より)。

 

つい先ごろ、今回の「偶然と音楽」ライブのきっかけとなった曲、“gwa”が生まれた背景を、辻村さんにインタビューさせてもらって公開した(gwa制作裏話)。

そんなことが!?と思うことが連なって、一曲になって吹き込まれた。たまらない。音楽が好き。

「何かが作られる」ことが目的でも目指す場所でもない。その一方で「何かが出来ちゃった」というのはとても楽しいことで全身いっぱいで喜んでしまう。

「音楽」は「偶然」と仲が良いのだろうか。どうだろう。逆に意図した瞬間に、きらめきが逃げてしまうのだろうか。どうだろう。音楽を作るときにたしかに偶然を待っている自分がいる。

そして、変わっていく自分と、当時からある意味全然変わっていないことに気づいた。

 

悲しいことを背負ったまま、楽しいことに包まれたい。そんな感じ。そういう場を作っていけたら。

その場にいる皆さんに身を預けて。今度は何が起こるかな。

 

偶然と音楽  ☞2022年10月23日(日)19:00‐21:00 ※6月延期の振替日程決定です!

森田真生 × 辻村豪文 (キセル) × 中村明珍

zoomにて京都・鹿谷庵から配信

¥4,000(生命ラジオ10月度に参加の方はそのまま参加可能です)

詳しくは↓

https://www.yorimichibazar.com/0627guzentoongaku

質問、メールも大歓迎です。こちらにお寄せください。

[email protected]

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https://www.youtube.com/watch?v=AgcTd6y3UmU

↑ ブックレットに曲誕生のストーリーが(泣)