この文章のタイトルは、今度2022年11月17日(木)に行うライブの名前です。
まず最初に、なんでこのライブのタイトルをつけてしまったのか。謝らなければなりません。
「お前に、島のなにがわかるんだ」とそういう声が聞こえてきそうです。僕ですらそう思います。じつは昨年夏に行った僕の本「ダンス・イン・ザ・ファーム」刊行記念トークライブのサブタイトルが、この度メインタイトルに昇格しました。
でも一体なんのこっちゃ、結局何をするの?ですよね。
瀬戸内海のこの島、この地区「和佐」に住み始めて来年で丸10年。ここまでいろいろありました。
個人的な環境の変化。2人目の子どもが生まれたときに集落で「20年ぶりの誕生」だと新聞に取りあげられました。それからオーガニックマルシェの立ち上げ、ライブ、落語会の立ち上げ、別の集落での子どもさんの失踪と、スーパーボランティア尾畠さんの登場。逃走犯の滞在、橋へのドイツ船の衝突と40日間の断水、コロナ禍と続き、最近でもいいのかわるいのか正邪の判断を許さないかのごとく、目が離せないニュースが続いています。
この島に居れて本当によかったと住むほどに思います。これまで友人たちが島に遊びにくると、あまりのよさに「来なきゃよかった」と言われることもありました。
その島のことを、僕の目線で語りたい。知ってもらいたい。一緒に遊ぼう。そういう気持ち。
そして、この会を行うテーマの中のひとつに、集落の元・芝居小屋「旧公民館」のことがあります。これは前回、ステージ上で僕が突如としてぶちあげた「買い取ります」宣言とともに直後に家庭内で波紋を起こしました(発表するのもはばかられた、エモーショナルエピソードはこちら「さまよえる魂、着地」にて供養しました)。
これまでこの芝居小屋に、立川志らく師匠、立川談笑師匠、二階堂和美さん、キセルや山縣良和さんなど数々の皆さんが登場してくださいました。
かつては水前寺清子さんなどもこられたそうですが、それはこの集落出身の作詞家、故・星野哲郎さんを慕ってのことで、星野さんも「島に恩返ししたい」という心で自費でコンサート(えん歌蚤の市)を10年に渡って作ったと聞いています。
僕の妻のおばあちゃん、リツエさんは星野さんと近い世代なので話すこともあったようで「偉そうぶらないでいよいよええ人じゃったよ」「てっちゃんて呼んでって言いおった」。
この様子は集落の人もよく口にされます。
星野哲郎記念館にいった折、星野さんの書斎コーナーには愛用の「落語テープ」が置いてありました。のちに確認すると、星野さんにまつわるコンサートのパンフレットには故・立川談志師匠が寄稿されていて、僕も近所の方もびっくりしました。
この集落、和佐に来てくれた志らくさんも談笑さんも、立川談志師匠直系の方々。
ちなみに和佐にあるビーチは通称「星のビーチ」。そして東京におられる僕の本の編集者さんも星野さんという、いろんな奇遇。
(↑人気沸騰中の”星のビーチ”)
さて、このビーチにほど近い公民館は、「芝居をしたい」がために集落の人たちがDIYで建てたものです。
それを「壊そう」と決まったのはここコロナの時期。老朽化や立地のことなどの理由はあれど、実は「中身はかなりいい」。大工さんからそんなお墨付きをもらってもいました。「もったいない」と。そこで、謎の手をあげたのが僕です。
この建物からでしか立ち上がらない場がある。それがこれまでの積み重ねで見えてきた昨今です。
コロナ騒ぎでざわついた年月を経ても、人間っておもしろいなと思える表現の一つが、落語などの語り芸であり、音楽でもあり、笑いと涙の世界だと感じてやまないです。この灯を、この場所とともに消したくない。そういう思いが高まり続けています。
そうそう、原体験の話。
僕が初めて生の落語を観に行ったのは、銀杏BOYZで全国40カ所以上をまわった2005年のツアーのあとでした。神奈川県民ホールでの立川談志師匠の独演会を、チケットを取ってボーカルの峯田くんと観覧しに行ったのです。
このとき、チケットの問い合わせをした先の県民ホールの方より「最初に観る落語が談志さんでよかったね!ラッキーですよ」というようなことを電話口で教えていただきました。印象深い一言。
そして初めて生でみた高座での談志さん、佇まいはあまりにかっこよく、今にいたるまで目に焼き付いています。
さて今回のライブです。主催はなんといろんなご縁が重なっての「立川企画」さん、立川談志師匠の事務所として立ち上げられた会社。僕が銀杏BOYZでのたうち回っていた杉並区時代に、折れた翼でふらふらになりながら立ち寄った赤ちょうちん「くが野」という飲み屋で傷を癒す夜が続きました。そんなときに、現社長であるKさんとのまさかの出会いが、ことの発端なのでした。
そして、昨年に引き続いて出演くださる立川談笑さんは、今回ご出演メンバーのなかで唯一周防大島に来てくださった方であり、昨年も舞台で僕の近況報告を聞いてくださいました。この周防大島の流れの最重要の見届け人です。
さらに、もう一人は今回も音楽パートで一緒になる阿部海太郎くん。こちらは高校時代からの音楽の見届け人。
そして落語と音楽をつないでくれるのが、前回のオープニングを盛大に飾ってくださった“ラップ落語”の柳家緑太さん。この素敵な方々が一緒になる日があるのだろうか。
(撮影:村井香)
さらに加えて豪華なメンバー。初めて登場してくださる方がいます。
玉川太福さん。大人気の浪曲師さんで「絶対観た方がいい」と以前から知人に言われていました。語りと歌、節回しが自由自在。曲師さんの三味線が重なり合う唯一無二の世界。
僕は数年前、山口県光市の「光がんざき亭」さんの企画で、玉川奈々福さんと神田伯山さん(当時は松之丞さん)の会を観に行ったのが、浪曲と講談を体験した初めての日。娘と一緒に体験して衝撃を受けたのですが、こういう会を作ってくれる方がいるから、できる体験。それがありがたかったです。
玉川奈々福さんの著書「語り芸パースペクティブ」’(晶文社)によれば、浪曲は義太夫節と違って「譜面がない」のが特徴だそうです。つまり、そのとき、その瞬間に生み出された音と声、そのセッションを目の当たりにしている、ということになります。
ちなみに、急に仏門の話になります。
僕はいわゆる出家、その道に正式に入る「得度」をしたのは2013年春。
ここに至る前の、仏教徒の最初の出会い。そこに導いてくださったのが、山梨県の大蔵経寺の住職である井上秀典師です。
そしてのちに本を読み、話を聞いて驚いたことがあります。
昭和時代。井上師匠のお父様である井上秀祐師の大善寺の門前で倒れ込んで、寺男として住み、その後出家してお坊さんになった方がいる。それは、現在もインドの仏教復興、そして階級差別撤廃に身を投じてインドで活動されている、佐々井秀嶺師だということに。
この方が出家の前後で影響を受け、実際に高座にも上がっていたというのが、なんと「浪曲」なのだそうです。(参考:佐々井秀嶺著「必生 闘う仏教」集英社 /山際素男著「破天」光文社)
(「破天」より)
ここで培われた声が、インドに住む方々の魂に響いている。そのことを想像して驚愕、感動しました。
その佐々井師にいつか一目お目にかかりたいと思っていたところ、数年前に山口県平生町の般若寺・福嶋弘昭師のご縁で、なんと周防大島で師にお会いすることが叶いました。そんなことがあるなんて。
その時に唱えられていた「声」は、今でも僕のなかで響き続けています。
玉川太福さんの浪曲。
「静かな演劇がそうであるように、会話の端々や仕草の水面下で蠢く駆け引きや葛藤を、観客の前に炙り出すのだ」
「太福の節は会話をブーストする。その声が含有する倍音の響きは、私たちの日常に潜むノイズの豊かさと似ている」
(九龍ジョー著「伝統芸能の革命児たち」文藝春秋・「日常のノイズをあぶり出す浪曲」の節より)
この本に描かれていることを読んでいるだけで、舞台上で起こっている想像がどんどん膨らみ、その場に居合わせたくなってしまう。
そして目次を見ると…周防大島で起こっていることと関係がないとは、思えない気がしました。
九龍ジョーさんもかつてバンドを通して出会った方ですが、そのバンドといえば、今回出てくれる村井守くんとともにいた「銀杏BOYZ」です。
彼はその前身のバンド、GOING STEADYのときからのドラムであり、そのときのきっかけや今のTVプロデューサー業に至る経緯は、こちらのラジオの最新インタビュー(UKPラジオ)で語られています。
GOING STEADYでの初めてのツアーのとき、一緒にまわったバンドでギターを弾いていたのが僕で、そのころから知り合った仲です。当時の村井くんの「何考えているかわからない」危なっかしさは今でも記憶に新しく、その後ドラムから離れ、TV番組の「調整役」でもあるプロデューサー業を生業にしているところに、狂気を感じます。一体なにを考えているのか。当日久しぶりに会う中で聴いてみたいです。
そして立川談笑さんによる直近インタビューのこの言葉に、ここ何年かの年月を考えながら救われる思いがしました。
「落語っていうのは人と人の摩擦やふれあい、コミュニケーションを扱っています。そしてその落語をお客様が客席から楽しむ、この形そのものもコミュニケーションなんです」
(CANARY「落語は心のデトックス!立川談笑が語る落語の楽しみ方」2022.10.26より)
そうそう、それがあるから生きているのが楽しい。そういう空間が、これからもあってほしい。そう思ってやみません。
周防大島を代表して、とはみじんも思っていなくて、個人的な体験、僕からみた周防大島のこと。
こんなことがあるよ、こんなことを思ったよ、のささやかな声をあげられたら。
11月17日、僕は周防大島トークと演奏と。そして素晴らしい落語、ラップ、浪曲、生き様を皆さんと一緒に楽しめたらうれしいです。
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「チンと周防大島探訪2」~落語と音楽と他いろいろ
2022年11月17日(木)開演19:00(開場 18:30)
– 出演者 -(順不同)
中村明珍 (農家兼僧侶)
立川談笑 (落語家)
阿部海太郎 (音楽家)
玉川太福 曲師:伊丹明 (浪曲師)
柳家緑太 (落語家/ラップ落語)
村井守 (TVプロデューサー/トーク)
– 会 場 –
渋谷区文化総合センター大和田伝承ホール
渋谷区桜ケ丘23-21 https://shibu-cul.jp/denshohall
– チケット -
料金(席) 前売3,000円 当日3,500円
チケット発売中
チケットぴあ(Pコード514-597)
ローソンチケット(Lコード31311)
立川企画 TEL03-6452-5901(平日10:00~18:00)http://www.tatekawa.jp/