私のミュージックポートレイト ~ Vol.01 (神鳥 孝昭 編)


本コラムサイトでこってり系の新しい連載が始まります。その名も『私のミュージックポートレイト』。各回ごとに広島の音楽人の方に「人生の10曲」を選んで頂き、曲にまつわる自身のエピソードやそれに対する想いを交え、インタビュー形式で時系列に沿ってお話しして頂きます。その10曲からは、普段会っておしゃべりするだけでは分からなかったその人の「芯」みたいなものや、ちょっぴり恥ずかしい過去、違った一面が見られるかも。。。そしてもしかするとあなたの「人生の1曲」に成り得る音楽との出会いがあるかもしれません。

記念すべき第一回は、やっぱり我らがSTEREO RECORDS代表の神鳥さんに自身の10曲を紹介して頂きました。神鳥さんの膨大なアーカイヴ(a.k.a. かん・ピューター)の中から厳選した10曲です。

―濃くなりそうなので、早々に1曲目お願いします。
1曲目はT-Rexの『Metal Guru』。これはねー、中学2年の時に初めて買ったCD。紙屋町の電車通り沿いにあるYAMAHAのCD屋で買ったT-Rexのベスト盤。で、当時その地下にウッディーストリートってゆうライブハウスがあって、T-Rex買った後にそこでThe Roostersの花田裕之さんのソロライブを観たの。いわゆるライブハウスもその時が初体験。当然ライブもめちゃ良かったんだけど、1時間以上かけて家路に着いて、CDプレイヤーを再生するまでの帰路の時間がめちゃくちゃ楽しみだった。(笑)
んで、プレイヤーにセットして1曲目の『Metal Guru』が鳴った時の!!(興奮!!)

―いきなりエモいですね。でも、神鳥さんの原点がT-Rexって意外と周りの人も知らないと思います。
そう。グラム感ないもんね、俺(笑)。あと、ギターで初めてコピーしたのもこの曲。コード簡単なのよ。
―良いエピソードですね。デビット・ボウイはこの後ですか?
2曲目がDavid Bowieの『Low』に入ってる『Warszawa』になるかな。あえて『Ziggy Stardust』は外しました。これが中3の時で、このアルバムは本当によく聴いた。寝る前にタイマーセットして、とかで。僕の音楽的なミーハーはボウイが指針になってると思う。ここからソウルとかアンビエントってゆうジャンルも知ったし。『Low』聴いてからは、もう完全に自分の中のロックの概念が覆ったよね。曲の構成も鳴ってる楽器もそれまで聴いてたヤツと全く違うもん。
―これ中学生で、って早熟ですね。普通にイヤな奴っぽそう(笑)。偏見ですけど。
かなりスノッブな中学生だったと思う(笑)。でもやっぱり若い時に受けた最初の衝撃みたいなのって、時間が経ってもその人の体の中にずっと残っていくと思う。俺の場合ボウイの音楽がやっぱりベースになってるんだなと今にして思うよね。

―今聴いてもカッコいいですね。でも確かに神鳥さんの音楽的フットワークの軽さを考えたらその話は納得できます。では3曲目お願いします。
The Beatlesの『A Day In The Life』。これは高校生に上がる前の春休みで、その頃に初めて〈赤盤〉〈青盤〉がCD化されて。ビートルズなら、って初めて両親に買ってもらったCDでもあるの。
―ビートルズの方が(ボウイとかよりも)後なんですね。意外です。
いやー、それまでは王道は別に後でいいやと思って、脇道通る感じで亜流ばっか聴いてたの。特にビートルズってもっとベタなものを想像してたから。んでいざ聴いてみると、俺はなんて過ちを犯していたんだ!と。もう衝撃だった。こんな凄い4人組だったのかと。当たり前なんだけどね(笑)。そっからストーンズやフー、キンクスとかの所謂、大御所を順を追って聴くようになった。(因みに神鳥さんのビートルズベストソングを聴いたら選べないとの事でした。)

4曲目はThe Smithsの『Half A Person』。これは歌詞が良いのよ。“俺の人生なんて語るのには5秒で充分”ってゆう内容。自虐的な内容で、当時高1なのに何か切なさや儚さのようなものを感じたよね。あ、あと俺、大学卒業するまで輸入盤って買ったこと無くて。音楽聴きながらその歌詞とライナーを読むのが大好きな少年だったんよね。とにかくスミスは高校生の頃、一番聴いたアーティストな気がする。
それで、余談なんだけど、大学卒業してからお店出すまでSmithsを7年間くらい聴かなかった時期があって。で、お店出すタイミングで改めて聴き直したら、滅茶苦茶良くて「やっぱこれだ!!」って。それで、その頃ってタイミング的に周りからやっぱり聞かれる訳ですよ。「店長さんは、どんなの聴かれるんですか?」って。その時に思ったのは“やっぱり俺ボウイとスミスが好きなんだなぁ”って事(笑)。そこから再びスミス聴き狂う日々が始まるってゆう(笑)。

―いい話…。ほんと、さっきのボウイの話と被りますけど、多感な時期に聴いた好きなモノって一生その人に残っていきますよね。いくら時間おいても聴いたら記憶がフラッシュバックする、みたいな。
では5曲目を。
Beastie Boysの『Sure Shot』。これは、高3でリアルタイムの曲。
―高校卒業までにもう5曲消化…(笑)
(笑)。でもこれも本当に衝撃だった。それまでロックしか聴いてなかったし、地元が田舎だったのもあって自分がヒップホップに馴染みがなかったのもあったし。まず、彼らが白人ってゆうのが当時は入り口として入り易かったのかも。しかもね、何がイイかって、ビースティーって音楽を聴き漁った後の(レコ屋の)耳で聴いてもメチャクチャカッコいいの。当時彼らみたいなロックを掛け合わせた所謂ミクスチャー・グループって他にも沢山居たんだけど、(それらを)今聴いたらやっぱり何か違ってて(笑)。でもビースティーはそんな事全く無い。やっぱりセンスが相当ズバ抜けてるんだなと思う。
(ここでは割愛しますが、ビースティーがどんだけクールでオリジナルだったか、というのをこの後神鳥さんが熱弁されてます。もっと詳しく聞きたい方はお店で直接聞いて下さい!)

んで、ここからアメリカの音楽の開拓が本格的に始まるの。続いての6曲目もヒップホップで、Eric B & Rakimの『Follow The Leader』。高校卒業して(福岡の)大学入ってからはロックの旧譜と一緒にヒップホップを買い漁る日々が始まるんですよ。で、その当時流行ってたのはDe La SoulとかA Tribe Called Questとかの所謂ネイティヴタン系(※1)だったんだけど、Eric B & Rakimに出会ってしまった。それと、Ultramagnetic Mc’s。ネイティヴタンも普通に好きだったけど、彼らのビートの方が俺はより好きだった。時代的にはネイティヴタンより少し前の東海岸のビート。NYのヒップホップ。

※1ネイティヴタン…80年代後半のヒップホップシーンに登場した、「ゴールド・ネックレス」「銃」「現金」などのギャング的なイメージを排した、言うなれば草食系HIP HOPグループ。前述の2組にJungle Brothersなどが代表される。

―神鳥さん、ネタとかも含めヒップホップも結構詳しいですもんね。ヒップホップで他に好きなアーティストいますか?洋邦問わず。
7曲目がBuddha Brandの『人間発電所』。これは俺にとって正に黒船でしたよ(笑)。当時の洋楽と同じように聴けた。彼らそもそも向こうで活動しててバイリンガルだったしね。今でもたまに聴くけど彼らもビースティーとかと同じ様に今でもきちんと発見があるのよ。ほんと、ありとあらゆる部分で完璧でしたね。
因みに俺はこの頃からソウルやジャズにも傾倒していったんよね。

―ほおお。この頃ってクラブ通いとかしてました?
(声を大にして)俺ね、高校卒業してから今に至るまでライブハウスとクラブと居酒屋にしか行ってない人間ですよ(笑)。ただね、一つ言いたい事があって、今でもそうだけど、クラブに行く人ってライブハウスに行かない、ライブハウスに行く人はクラブに行かないんですよ。なぜだか。でもそれはナンセンスだなー、と思ってて。両方に通うのを20年間続けてきて今がある感じ(笑)。
―確かに、割とそんな風潮ありますもんね。あれはなんででしょう(笑)。
音楽好きならジャンルとか場所とか関係ないのにね(笑)。あと、もう一つのエピソードとしては、ステレオの9周年の時にDEV LARGE(Buddha BrandのMC。2015年に急逝。)にイベントに来て貰って、その後もメールやりとりする位仲良くなって。それは大学生の時の自分に聞かせてあげたいね、やっぱり。(元スタッフの)三上君なんてDEV LARGEと出会って(刺激を受けて)NYのブルックリンまで飛んだからね。結果、人ひとりNYまで飛ばす店です(笑)。(三上君は今もブルックリンで修行中です。)

8曲目はガラッと変わってRadioheadの『No Surprises』。俺ね、『Creep』とか『The Bends』とかレディへの最初の頃のタイトル全部発売日に買ってるんですよ(笑)。あとライブも観た!福岡のドラムロゴス(キャパ1000人弱のハコ)で。でも確かこの時のツアーって、『Ok Computer』の来日リリース・ツアーで、みんな少し「ん?」てなってたような印象だったと思う。(作風が)当時はやっぱり少し難解で、結局チケットも売り切れなかったから。今じゃ考えられないでしょ?(その後、グラミー賞を受賞して以降の活躍は周知の通り)
ここまでが学生編。学生卒業するまでで8曲消化(笑)。

―(笑)。因みに、お店出すまでの社会人の数年間って、イコールHMVで経験を積んだ数年間って捉えて良いんですよね?
そうだね。この時期もしこたま音楽聴いてる筈なんだけどねぇ。。なんだろうなぁ。。(笑)。

―では9曲目お願いします。
次はThe Good, The Bad & The Queen(※2)の『Northern Whale』。ステレオを出して1年目の時かな。お店に将元(DJ兼神鳥さんの遊び友達)がCDを持ってきてくれて。俺ね、生まれ変わってバンドやるならこんなバンドやりたいもん、ほんとに。個人的には100%好みのサウンド。
―何が引っかかったんでしょう?
何だろうなぁ。言ったらそんなハイブリッドな音楽でもないんだけどね。国籍不明な摩訶不思議なサウンドだと思う。しかもトラッドすぎず、フューチャーすぎず、みたいな。他に似たようなサウンドが意外に無いんよね、激渋すぎて。(You Tubeを観ながら)見てこれ!ドラマーがフェラ・クティのバンドのトニー・アレン。黒人がこんなミニマルなドラム叩くのよ。いやー、生まれ変わったらほんとこんなバンドやりたい、メンバー見つからなそうだけど(笑)。

※2The Good, The Bad & The Queen…元Blurのデーモン・アルバーン、アフロビートの創始者フェラ・クティと共に活動をしていたトニー・アレン、元Clashのポール・シムノン、元The Verveのサイモン・トングからなるスーパーバンド。正規の音源はアルバムを1枚発表しているのみ。

―では、最後、神鳥さんの現在を象徴する1曲をお願いします。
Riki Hidaka君で締めたいと思います。『不良たちの描いた夢は』。
―やはり来ましたね。なんか本当に運命って感じですね。
10年間ステレオをやって来た中でとうとう出会ってしまった、って感じですかね。実は最初ヒダカが店に来た時は彼が音楽やってるって知らなくて。一緒に飯食って酒飲んで、家に泊めてあげた程度。で、その後、彼が音楽作ってる事知って、ライブを観て、本当に衝撃を受けて。幼少期から聴いてきた自分の好きな音楽の全てが詰まってる!と思った。
でね、俺思うんだけど、今回挙げた10曲も、ジャンルとか知名度はバラバラだけどある意味王道だと思うんですよ。俺は全然音楽の中央にいる人間だと思う。ヒダカは割と亜流な印象持たれ易いけど、音楽好きなやつからすると、彼は(ちゃんと音楽の)中心に居るような気がするんですよ。よく奇才とか言われてるけど、いやいや、王道でしょ。って(笑)。

〈後記〉
お店に行ったら色んなジャンルの音楽を紹介してくれるし、主催するイベントも有名無名問わず本当にジャンルレスなモノをやっているので、普段から神鳥さんの事を少しでも知っている方の中には、もしかしたら今回の10曲が少し意外だった、と思う方がいるかもしれません。もっとマニアックなモノ紹介するかと思った、とか。
僕が「なるほどなー」と思ったのはやっぱり、最後の「自分は王道だ」って言ってた話です。辺境のヘンなものも含め音楽無茶苦茶聴いてきた人ほど、言われてみれば、確かにそういう「真ん中の人」が多いかもしれません。普段は気付かないけれど。
自分もキワモノの極みだと思っていたRiki Hidakaの音楽も、実は目茶苦茶ストレートだったのかも、と思い直しました。表現として不純物が無さ過ぎて、今の時代逆に異質に映るのかもしれないなー。そんな事を考えたインタビューでした。
因みにこのシリーズ、リレー形式、テレフォンショッキング形式で更新していく予定です。さあ、次回は誰の「人生の10曲」でしょう。お楽しみにです。(山)