連載をしている雑誌の担当編集によると、作家から届くマンガ原稿のアナログとデジタルとの比率は既に半々だという。メーカーのWEBサイトを信じるなら「クリスタ」ことマンガ制作ソフトウェア「CLIP STUDIO PAINT」は、Adobe製品以上の売り上げがあり、pixivやcomicoなどのネット上のイラストやマンガの創作を支えている。
デジタルを導入すると「レイアウトする」というデザイナー的な作業がマンガ制作に上乗せされる気がして、それが嫌でデジタル化を避けていた。マンガ制作はデビュー以来画全てアナログ。シンプルに紙とペン(マーカー3本)だけ。作品によってはトーンすら貼らない。アイデアをまとめる作業もノートに鉛筆。
とはいえ、カラー原稿の依頼など、必要に迫られ例外的にデジタル作業を行う場合もある。下描きしてペン入れ、それをスキャンし、画質を調整し、ゴミを取る。その後Photoshopで色を塗って納品。
紙の原稿をデータ化するスキャンという工程は、現実の物質をデータへと変換する作業なわけで、個人的にはここに最も負荷を感じている。音楽で言うとエアーを通した「録音」に似ている。目の前の「現実」を「情報」へと折り畳むような感じ。
マンガの制作を音楽に例えるなら、マンガの設計図たるネームは譜面による作曲、ペン入れは演奏、スキャンは録音トーンや彩色はエディットやミックス、レイアウトや版下制作はマスタリングだろう。
ならばいっそ、ネームも下描きも仕上げも何もかも、デジタル上で行えたら一切のストレスはない。エアーを通した録音のゴミ取りや調整がマスタリングならば、最初からソフトウェアが歌ってくれればその必要もないわけで、多くのトラックメーカーやボカロPが行っていることはそれだし、同じことがマンガ制作にもいえる。活版印刷の時代ならともかく、デザイナーと印刷所がデジタル化しているのだから、初めからペンタブでコンピューターに手を突っ込むようにマンガを描ければ(多くの人が実際そうしている)、一切のノイズはなく効率的かつ合理的だ。
考えれば選ぶべき道はひとつしかない。けれど、いまだに連載マンガは生原稿を毎回編集部へ宅急便で送っているし、音楽もしかり。そこにあるピアノを弾くだけで、録音もマスタリングも一任。原始人なのかなと思う。