「音楽やってる時もエフェクターってあんまり使わなかったんです。ギターをダイレクトにアンプにつなぐ感じで」(出典はこちら オオシマアコースティック「農と音楽」)
先日、サイケデリックポップバンド shinowa のライブに、トークと1曲ギターで参加したときのこと。この記事は会場にいた周防大島の三浦さんが書いてくれたもので、壇上でギタリストの平田さんと話していたときの僕の発言だ。
たしかに、かつて僕はそうだった。
カクバリズムの角張渉くんとを始め、以前組んでいたいくつかのバンドでは、一切エフェクターを使わなかった。エフェクターというものを使って表現することがかっこいいとは、その頃どうしても思えなかった。
そして、先日の上記の発言は、次の下の句に続く。
「だから、農業でも農薬や化学肥料みたいなエフェクターは使わない。」
これは今の自分の農業の在り方を解説しようとして出た一言。あまり意味がわからないかもしれないが、そこに平田さんの合いの手が続いた。
「わかる」
さらに続けて、
「ドローンを使って農薬をまくようなミックス、とかですね」
例えが例えを呼んでしまった。
急激に進化し続ける現在の録音技術、デジタルとアナログの考え方。
そして同じく急激に変化し続ける現在の農業の在り方を、僕たちはライブハウスにいる聴衆に向かって一生懸命説明していた。
「ドローン」がまたややこしくて、農薬を無人でまく「機械」のことと、継続「音」とが掛かっちゃっている。さらには「仏教」の話も入ってきて、お経におけるドローン効果とジミヘンドリクスやダイナソー・JrにおけるFUZZの意義が、頭の中で錯綜してそのあと何をしゃべったのかあまり覚えていない。
そこに、周防大島からお米を売りに来ていた三浦さんが、客席から、
「僕はアンプをつかわない農業」
と発言した。もう本当に意味がわからなかった。
僕はのちに、銀杏BOYZというバンドに入った。バンドではごく初期だけ「ギターとアンプ(マーシャル)」だけの回線で演奏してみたことがあったが、それでは全く表現しきれなくなり、エフェクターの数はどんどん増えていった。最終的には、ステージ上の僕の背後には4台のアンプが鎮座。
足元はアナログエフェクターでちりばめられ、演奏よりも重要な「煩雑な足さばき」を手に入れた。このフィジカルさは、僕だけのものだった。
これを農業で例えるとどんな農業なのだろう?
次の日、僕は「護摩法要」に出仕する日だった。般若寺という1400年の歴史があるお寺での行事。この法要は、住職によって「護摩」と呼ばれる火を焚きながら修される仏教儀式。僕は大きな声でお経を唱え、昨夜のことを思い返しながら火を眺めていた。
この仏教は、音楽でいうと…
ここで頭にひらめくものがあった。
「これは、たくさんエフェクターを使う仏教だ」
曼荼羅の絵、お香、火、水、花、葉っぱ、木の枝、器、鈴、鐘、本尊。色、におい、音、温度、いろいろな仕掛けが四方八方から飛び込んできて、いつしかそれに包まれている。自分も口から音を発し続けている。
(サイケ…)
僕はこの儀式が大好きだ。
前の日の晩、僕は6年ぶりにフルバンドの中でステージに立っていた。リハも練習もなしの一発。それは本当に集中のいる瞬間で、しかしある特別で幸せな時間が流れた。
「ギターも仏器なんだ」
急にそんな思いが浮かんできた。
ところで平田さんは学校の先生でもあり、仏教に造詣の深い方でもある。
浄土系の仏教では、「専修念仏」(せんじゅねんぶつ)そして「自然法爾」(じねんほうに)というあり方を聞く。「南無阿弥陀仏」という念仏を一心に唱えることに救いがある。
これはともすれば「アンプ直」のシンプルさ。
いや、「アンプのいらない」アコースティック感と、誰にでもできるというパンク感をもつアティチュードなのではないか。そう思えてきた。
僕にとっても、平田さんにとっても、ギターはもしかしたら仏器かもしれない。
先述のカクバリズム・角張渉くん。僕が一緒にバンドを組んでいたころ、ギブソンのSGギターのブラックを使っていた。彼は確かFUGAZIの流れでそのギターを手にしていたんだと思う。アンプ直の、最高に研ぎ澄まされたSGサウンド。
僕は銀杏BOYZの後期、レコーディングでそのサウンドが必要になり、彼のギターをお借りした。どうしても必要になったものがあったからだ。
「できるだけ残虐な音を・・・」
そしてあるものを勝手に取り付けてしまった。
それはSG用のアームだった。つまり、清廉なFUGAZIの姿から、BLACK SABBATH・トニーアイオミな姿にしてしまったのだ。https://www.youtube.com/watch?v=jJ-yRPJxzLQ
ちなみに、このBLACK SABBATHのアルバムのタイトルは“Dehumanizer”(非人間的にするもの)。
歴史的に、ギターに続く言葉はそもそも「クロスロード」、悪魔と取引するものだというのはロバートジョンソンの昔から連綿と受け継がれている。
仏の境地か、それとも悪魔と取引きか。
角張君のギターを違う形にしてしまったことを、今、本当に申し訳なく思っている。
最後に。
周防大島でこんな話を聞いた。有機みかん農家で友人の森川くん。彼の好きな音楽のジャンルは「ダーク・サイケ」、そして「フォレスト」だという。
我々は結局、森に還っていくらしい。