Sam Gendel と Fabiano Do Nascimento – FESTIVAL de FRUE 2021によせて


11月の6日7日に静岡県のつま恋リゾート彩の郷で開催される野外音楽フェス、FESTIVAL de FRUE。

“魂の震える音楽体験” というコンセプトの下、2017年にフェス形態で始まった「FESTIVAL de FRUE」は、ジャズやロック、ワールドミュージック、電子音楽などの多岐に渡るジャンルのアクトを海外のアーティストも含め独自のラインナップでブッキングしてきました。

https://festivaldefrue.com/

コロナ禍での開催となった昨年に続き、今年は海外アクトの出演も続々発表され、以前のボーダレスなFRUEに戻りつつある印象を受けます。
今回はそんな2021年のFRUEの第一弾発表アーティストでもあった、LAを拠点に活動する気鋭のサックス奏者・Sam Gendel(出演名義はSam Gendel Concert Group)とブラジル出身のギタリスト/コンポーザー・Fabiano Do Nascimentoの二人について、彼らのディスコグラフィを交えながら簡単にご紹介します。

Sam GendelはLAを拠点に活動するサックス奏者(厳密にはサックスをメインに取り扱うマルチ奏者)でありコンポーザー。10代からサックスを吹き始めた彼は、LAの絶え間なく変化するジャズシーンの中でその技術と感性を磨いていき、自身が在籍したジャズトリオ、ingaの活動を経て2017年に自身の初作となるボーカル入りの作品『4444』をリリースします。その後、LAのジャズ・コレクティブ、Knowerで活動するベーシスト・Sam Wilkesとの共作や音響に意匠を凝らしたアブストラクト作『Pass If Music』をはじめとする幾つかの実験的~野心的な作品を発表し、2018年にはFESTIVAL de FRUEで来日公演を果たします。

2020年にはアメリカの名門レーベル〈Nonesuch〉から彼の評価を決定づけたともいえる『Satin Doll』をリリース。これはデューク・エリントンやジョン・コルトレーンで知られるジャズスタンダードを超独創的な手法で再構築したアウトサイダーで先鋭的な1枚。続く同年の『DMR』では80年代のドラムマシンによるヒップホップ的手法を用いた摩訶不思議なエレクトロニック作品に仕上げました。

Sam Gendelの音楽を紹介する際、”ジャンル”という言葉は避けて通れないものだと思うのですが、彼の音楽の場合、”ポストジャンル”や”様々なジャンルが混ざり合った~”というジャンルという概念ありきの表現よりかは、”音楽自体が不可分で定義づけられない”、と言った方がより正確であるように思います。もちろん、彼の出自であるジャズがベースになっているのは確かなのですが、括りや文脈に捉われず、時にはエフェクターで自身の音を変調させながら、自分の創作的好奇心をただただ音として表出させているように感じます。

今年に入ってからのリリースペースも凄まじく、過去に自宅で録音されたパーソナル・アーカイブとライヴ音源で構成された3時間越えの『Fresh Blood』やディアンジェロのバンドへの参加で知られるベテランベーシスト、
ピノ・パラディーノとSamと同じLAのシーンで活動するギタリスト、ブレイク・ミルズの共作『Notes With Attachments』への参加を筆頭に、ネット上で発表されたカバー、リミックス、共作なども含めると、すでに約20もの作品に携わっています。加えて、折坂悠太と笹久保伸のそれぞれの新作に参加するという国境をまたいだコラボレーションも話題になりました。そういった彼の創作意欲の旺盛さや唐突に新曲をリリースするスタイルからは、パッケージにこだわらない「録って出し」の音源至上主義のようなものを感じます。

そして、そんなSam Gendelとの共作もリリースしているのが、リオ・デ・ジャネイロ出身のギタリスト、Fabiano Do Nascimento。彼らはLAの同じシーンに属する2人でもあり、お互いの作品にもゲスト参加していたりします。
2000年にLAに移り住んだというFabianoは、幼年期よりクラシックや音楽理論などの教育を受けており、ブラジル音楽とジャズを独学で研究し卓越した演奏能力を身につけていきました。
マルチ木管奏者、パブロ・カロジェロらと組んだTRIORGANICOで〈Now Again〉からリリースした『Convivência』や南米のトラディショナルなフォークにアプローチしたSam Gendelとの共作『Sul』などを経て、ソロデビュー作『Dança do Tempo』を2015年にリリース。ブラジルが誇るパーカッショニスト、アイアート・モレイラらがバックバンドを務めた、彼の名をシーンに知らしめる1枚になりました。

今作を更に押し進めた形となった2017年の2nd『Tempo Dos Mestres』では、70年代のバーデン・パウエル、エルメート・パスコアール、エグベルト・ジスモンチといったブラジル音楽の先達の諸作をも思わせながらも、現代的なエッセンスも忍ばせた温故知新たる作品に。昨年発表された3rd『Preludio』は自身のギタープレイの技巧性を前面に出しながら、同時に哀愁も混じった情感豊かな作風に仕上げています。そし今年の9月には最新作『Ykytu』をリリース。アンビエントやニューエイジ、エレクトロニカにも通じる叙情性を湛えた、加えて音響的にも意匠を凝らした奥行きのある1枚になっています。Fabianoもまた、その作風をリリースごとに変えながら自身の音楽表現を探求している印象を受けます。

今回のFRUEでは、Samはフィリップ・メランソン(Electronic Percussion)、ゲイヴ・ノエル(Electric Bass)を交えたトリオでの出演、Fabianoはソロでの出演となります。ふたりのパフォーマンスを生で体感する前に、予習がてらぜひ彼らの音源にも触れてみて下さい。
最後に、Sam GendelとFabiano Do Nascimento両名の近年のパフォーマンス動画を紹介しておきます。