Which way to go


FMラジオ番組・近藤志保のDAYS!に出るために、広島に向かった。駐車場代や不足の事態に備えて、妻にもらったお小遣いを握りしめて。

 

2時間かけてたどり着いたラジオ局での放送の後、広島の街をさまよい、車を停めてあるお店へ歩いた。広島のレコードショップ・Miseryで久しぶりにレコードを漁るためだ。島に住むようになってからは主にネットショップで通販するようになり、また2020年以降は特にそれしかしなくなったので、実店舗へ足を運ぶのは1年以上ぶりだ。

 

ビルの2階への階段を踏みしめ、歩みを進め、レコード屋の中に入ってびっくりした。

あまりに久しぶりすぎなことも作用して、自分の中に眠っていた感覚が増幅されて表に出てきた。

 

「あれ買いたい、これ買いたい」

 

家にいる時と全然違う情報量の洪水。湧き立つ毛穴。眠っていた獅子が起きる。

 

「ベストを尽くせ」

 

僕にとっては、必要な滋養となるであろう、レコードと目が合ってしまう。

しかし「限られた条件」、お小遣いは上限がある。家に帰るまでがラジオ放送。家族生活に全く必要のないものを買う勇気。

昔は高くて買えなかった廃盤がたくさん再発され、以前に比べれば手の出なくもない価格で陳列されている光景に驚いている。目に火が灯る。

 

「このレコードは、どこから来たのかな?」

 

出身の国、紙質、そのレコードが生まれた背景を感触で確かめ、手書きで丁寧に書かれたお店のレビューから必死に嗅ぎとる。たくさん手に抱えてみる。でも、持ってはみるけど、全ては買えない。ベストを尽くすのだ。

 

この時、僕は家でネットをみている時とは違う力を使っていることに気づいた。ベストを尽くすために、五感のインプットを元に「想像力」をフル動員しているのだ。

そしてふと時間を見ると、店に来て1時間半ほど経っていた。

 

最近、小学校を卒業したばかりの娘は、アイドルグループNiziUに目覚め、数種類のエディションがあるC Dの中でさんざん悩んだ挙句「ブックレット付きのが欲しい」と決意し注文した。今、その気持ちが痛いほどわかる。

 

僕はその日、さんざん悩んで、ブックレット付きのレコードを選んだ。結局見たことも聞いたこともないブラジルの7バンド70曲くらいを収めたものを買った。世界に300枚しかないらしい。野菜ひと束100円などのスーパーマーケットの世界を背に、3000円は超えているレコードに手を出すわが感性。娘に見せびらかすと複雑な顔をした。だが、それを持ち帰った今、その盤は、僕の創造力を高めてくれている。

 

ハシゴして、STEREO RECORDSでも買い物をした。ROCKPILEのレコードを買った。すでにオンラインショップで目星をつけていたORANGE JUICEのレコードは、すでに売れてしまっていた。やはり、思った時には動かないといけないのか。いや誰かしかるべき人の元に渡っていた、そう考えるべきか。

気づいたらSTEREO RECORDSでも1時間ほど滞在していた。

ROCKPILEのレコードは、CDよりも艶のある音がして、身体が反応してしまう。

 

↑ かつてのわが部屋(「ギンナンショック 下巻」より)

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先日、僕は初めての本「ダンス・イン・ザ・ファーム」を書いて、ミシマ社という出版社から発売になった。その奇跡の経緯はこちらのコラムに書いた。

https://www.mishimaga.com/books/danceinthefarm/003065.html

この本の表紙に最高の絵を描いてくれた、アーティスト、Tim Kerr。ハードコアレジェンド・Big Boysを始め、数々のレコードを世に生み出してきたその方のプロフィールは、こうだ。

Take photos Do art Play music BREATHE

https://www.instagram.com/movetk/?hl=ja

このことを思いながら、同じく、僕の本に帯の推薦コメントを書いてくれた森田真生さんの本を読み返していた。森田さんは「独立研究者」というあり方で在野にて研究し続けている人だ。「数学の演奏会」という、みたことのないライブ活動に触れて僕は衝撃を受けたのだが、その本の中のインタビューで、こんな一節が目に飛び込んできた。

「僕はこの本を、呼吸している本にしたかった」(みんなのミシマガジン×森田真生0号・2016年)

https://mishimasha.com/books/morita0.html

この一節は、こう続く。

「(中略)本当の表現は、呼吸のようなもので、たとえ共感する人が少なかったとしても、その少ない人たちが非常に深く共感してくれることによって、共振して、リズムが生まれ、鼓舞されていく。そういうものだと思うんですよね」(同上)

 

ここに共通点があったか!と一人、夜の周防大島の家で興奮した。この一節は、どこか、よく知られた、このインタビューにも通じる気がする。

「新しいアイディアというものは、2000人の前では起こらない。新しいアイディア、新しいアプローチというものは、20人~25人が目撃するもんなんだ」(Ian Mackaye / The evens インタビュー・2005年)

 

Ianと Timは敬意とともに交流がある同士と聞いている。年齢は違うけど、森田さんは幼少期にシカゴに住んでいたという。何か共通項を見出すのは、無理やりだろうか。

 

森田さんとは、出会ってから周防大島で「数学の演奏会」を開くようになり、またそれ以外でも実験的な企画を幾度もやるようになった。

来島時の道中などで、思いもよらない会話も幾度となくあるのが驚きだった。例えば、食べる意味で魚が好きということを聞いた時、

「魚では一番何が好きですか?」

と聞くと、

「・・・一番といっても、この魚はこれが一番、あの魚はこれが一番、何について一番かで答えが変わりますよね」(すみません大意です)

 

つまり、一番は選べない。もっといろいろなレベル、レイヤーがあるのだ。この質問の前提を問われた僕は、今でもこの会話の鋭さ、面白さが忘れられない。

 

これ以外にも、言葉、民主主義、S D Gs、仏教、農業、生と死・・・ 種類を選ばないあらゆる問いの「そもそも」を考えていくアティテュードに僕は感化され続けている。

これだけいろいろなことが起こる今の社会で、森田さんと出会った未来と出会わなかった未来とでは全く違う世界の見え方だったと思う。

 

最初の周防大島でのライブの開催は、お話してから1年以上かけた。今度4月15日に出る「計算する生命」という著書は、前の「数学する身体」という著書から、5年かけて書かれたそう。

一つ一つを丁寧に作る表現活動は、信じられる一つの鍵だと思う。

 

この4月3日には、京都にある森田さんのラボ「鹿谷庵」で対談をすることになった。こんなことはそうそうないことだ。

だいぶ宣伝みたいになっちゃったけど、こんな角度からでも、森田さんの思考との出会いのきっかけになればと願う。僕の直感だと、音楽好きの人でピンとくる人はきっと多いと思うから。

 

ちなみに森田さんは、独立独歩で思考を磨きながら、それと同時に人との共同作業、新しい場と出会いを作るのがまたすごくて。それも大きな魅力だ。僕はそこに、だいぶバンドを感じている。

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4/3(土) 16:00 Start(オンライン対談)

THINK&TALK STILL 「武器」を捨てて生きる

森田真生×中村明珍

京都・鹿谷庵より配信(ライブのみ)

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4月毎週木曜日 (オンライン配信)

生命ラジオ

森田真生・中村明珍

京都・周防大島より配信(ライブ・アーカイブあり)

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「ダンス・イン・ザ・ファーム 周防大島で坊主と農家と他いろいろ」(ミシマ社)

2021年3月19日刊行・全国で発売中!

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MSLive!

中村明珍のこみゅにてぃわ #6 米特集

2021年4月25日(日)朝10:00-11:30 (詳細coming soon!)