オリーブを育てている予定だった。
最近、ピーズのマネージャーをされている俊平さんとやりとりすることがあって、お昼休みの電話で急に「レミオロメン」の人のことを聞き、あとで俊平さんからヤフーの記事が送られてきた。そこには山梨県でオリーブ農家として活躍しているという、ベースの方の写真とインタビューが綴られていた。
「石和温泉かあ」
インタビューの舞台の場所はそこだった。僕にとっては仏道の師匠の寺があるところなのだ。かなり足繁く通っていた地だった。
オリーブではなく、僕は錫杖を持っている。錫杖(しゃくじょう)は、楽器なのだろうか。また先日は、音楽家の阿部海太郎いわく「あれはいい」と楽器目線としての勧めで、中国由来のシンバルみたいな仏器、「鉢」(はち)を購入した。法要の大事な場面で作法とともに鳴らすものだ。
つい先頃は、保育園児の息子がわが家の「木魚」にBluetoothのヘッドホンをかぶせていた。
オリーブ栽培には一旦だいぶ失敗してしまった、けれども諦めたわけではない。長いスパンでトライしていくつもりだ。でも、またイノシシに掘り返されてしまった。
ある時までは農家まっしぐらにいくつもりだったけど、僕は少し、というかだいぶ、方向転換をした。今考えれば、きっかけは周防大島での断水・2018年と、それから2020年初頭からのこの感じ。それが間違いなく作用している。
もともと「職人的な楽器演奏者ではない」という弱点があった上に、自分の目指す農業を極める、というか生活で楽しく「踊る」には、実はもっとその土台のところを僕みたいな人間ぐらいはやらないといけないのではないか、と思うようになった。2018年と2020年以降の出来事が、僕にそう言ってくるような気がしてしまっている。
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銀杏BOYZをやっていた中盤ぐらいから、ギターのエフェクターについての要請に応える日々が続いていた。元々は「アンプ直、はい終わりっ」というキッパリ感が好きだったのに(Snottyではアンプ直、トレブルだけフル、後はゼロ)、
「人間、変われるもんだな」
と自分自身の変遷に感心するほどエフェクターボードとアンプが増えていった。便宜上、チューナーが3個も足元にあったのは今でも笑ってしまう。
ノイズやシューゲーザーと言われる音楽の分野を参考にし、とりわけMy Bloody Valentineの徹底したこだわりに影響をとても受けた。とても追いつけないながら。
「ディレイの音が続きながら、演奏も続けることができるのか」
ある日その難問を抱えながら、バンドのライブを観に行った。するとまさに、2階席から見る目の前のステージで、その効果を操るギターの方がいるではないか。
そのバンドが「キセル」であり、ギターボーカルの辻村豪文さんだった。
藁をもすがる思いでただのファンだった僕は紹介してもらい、そのエフェクターの秘密を教えてもらい、pyun2 マシンという唯一無二の小箱を、製作者の下村さん本人にお借りするということにまでなった。銀杏のスタジオでももちろん使った。
そして、キセルはのちに二階堂和美さんとともに周防大島で主催したライブに出演してくれた。そんなことになるなんて。
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先ほどの40日の断水が起こっていた2018年、今思えば折り返しぐらいの発生から20日ごの11月11日。この時も、僕はあるライブの主催をしていた。それは、「数学の演奏会 in周防大島」というライブで、出演者は森田真生さんという人だ。全国各地で数学を通したライブ活動を行なってきていた、独立研究者として活動する人だった。
お声がけして、初めて周防大島でライブをやるまでに1年をかけた。その1年の一番最初、周防大島に降り立った日。「呼吸が合うかどうか」を確認しに、森田さんは島に来たという。
その日、周防大島を見て回った時に出会った1人が、周防大島で自然農を営む宮田正樹さんだった。「野の畑 みやた農園」で野菜農家として、島で暮らす。山口県内で有機農家としての経験も長く、最初の数年は鍬とスコップだけで耕作放棄地を再開墾していくという、本当の百姓の姿を見せてくださる人。奇しくも僕が移住した時と全く同じタイミングで島に移ってきた。
その出会いの日に、宮田さんから語られた「命に近いほど、お金が動かない」という言葉。
それを森田さんが受け取って翻訳し、たくさんの人に共感を持って伝わることとなった。
毎年森田さんとは、周防大島でのライブを重ねていった。2018年の断水下でのライブ、僕は「なんでこうなってしまうんだろう」という人間社会のおかしさを目の当たりにしてしまって、頭がはてなだらけだった。その時、森田さんは「こうではないか」と教えてくれたいろんなことが、当時はおろか今も助けてくれている。
2020年、コロナ禍でライブ会場での会は作らなくなり、オンラインに移行。その時、たびたび話題に出ていたのが、Timothy Mortonというアメリカ在住の環境哲学者とその考え方。未邦訳の著書”Hyperobjects” はBjörk の曲にインスパイアされて編み出されたという言葉であり概念、それがタイトル。その頃、翻訳と解説を森田さんは少人数のオンラインゼミで教えてくれる場を設けてくれたのだが、その第1章で、その重要な概念を説明する一つの例として出てきたのが、My Bloody Valentineだった。
My Bloody Valentineの強烈な音とその美しさが、私に波長を合わせてくる。その「粘着性」のこと—。
これが今のコロナウイルスと重なってくる。
この2020年から2021年までの日記を辿りつつ、森田さんが新しい思考を綴った本「僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回」(集英社)が出たばかり。
例えば、Mortonの考えや説いていること、そして森田さんがどのように捉えているかはこの本を読むのを強くお勧めします。
そいて、同時に、出版を記念して、オンラインでのライブを主催する事になった。出演は、森田さんと先ほどの宮田さん、そして僕。
昨年から毎週行なっている学びの配信、「生命ラジオ」の1周年の記念も兼ねている。
宮田さんは、森田さんの話を聴くことの印象を、
「そんな考え方があるのか、と毎回ショックを受ける」
という。僕も実はお会いしてから話を聴くたびに毎回そういう体験をしているのだけど、それって新しい音楽を聴いた時と同じかもしれない、とも思ってきている。
森田さんはそして、「権威」というものをどう考えたらいいか、をも教えてくれる存在だ。「数学」は権威との向き合い方、考え方があり、それを僕は新鮮な気持ちと驚きともに、どこか懐かしい気持ちで受け取った。
それはパンクのバンドが教えてくれたものと似ていたように思えた、と同時に、全く初めて知ったことでもあった。とにかく真摯な態度といったらいいのか、そこにとても信頼の気持ちが生まれていった。
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このライブに向けて、まさかの音楽を作ってくれた人がいる。それは、先ほどの「キセル」の辻村豪文さんだ。こんなことって、あるんだろうか。生命ラジオでの対話をいつも咀嚼して時には自身のライブ配信のMCで話してくれたりして。
こうやって物事が生まれてくるのは本当にすごいなと思う。
そして今、元々思っていた以上に「音楽の力」はパワフルなのではないかと思うようになった。
それはコロナ禍以降に初めて感じた種類の、音楽の力強さ。
僕はこの本の刊行記念として、もう一つ取り組んでいる。
デザイナーTさん、シルクスクリーン職人Gさん、紙すき職人Fさん、大学生Sさんとともに、初めてのものづくり。和紙と種で作る「ポストカードサイズのジャングル」(by Fさん)という試み。
和紙は、種から原料を栽培して、作るんだそう。知らなかった!
だから、原料の収穫が今で、それが終わってから紙をすき始めるのでComing soonだ。
(画力がなくて魅力が全然伝わらないイラスト、すみません!)
こんな楽しみ方も、これからもいろんなものが生まれてくる、この森田さんとの場に交わりに、タイミングで出会えてもらえたら。
「生命ラジオ」×『僕たちはどう生きるか』刊行記念トークライブ(オンライン)
10月24日(日) 14:00-17:00
森田真生 × 宮田正樹(野の畑 みやた農園) × 中村明珍
(ライブのみ・アーカイブなし)
参加費 3000円
「生命ラジオ」10月ご参加の方は、このライブもそのまま参加できます。
参加費 5000円 (毎週木曜日 朝10時から11時/アーカイブあり/フリーアワーあり)
URL https://www.yorimichibazar.com/seimeiradio2020
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