水と私たちと周防大島


先日、久しぶりに滝行へ。周防大島は海のイメージだけど、けっこう600m級の山々が連なって「瀬戸内アルプス」なんていわれていたりもします。島の山中に僕の好きな滝があって、ちょうどいいタイミングで行けるとなったので、島在住の友人エイブくんと一緒に朝早く山深くへ足を運んで行きました。道はあるけどほとんど通る人もいなくなっているようで、以前よりも歩きにくい道中。

秋の中盤だったので、気候は暑さと寒さの中間くらいかな。ですが水はすでに冷たさ満点。そしてエイヤっと入るとそこは瞬時に別世界、忘我の境地になっていく…。

 

終わったあと、心地よいテンションで朝日差し込む国道を家に帰りながら、不意にかつてのことを思い出していました。

 

バンドにいたころ、「風とロック」という、ちょっとサイズが大きめなフリーペーパーに何回か取り上げてもらいました。僕の変なイラストも、あるときからどでかく連載させてもらえたのだけど、絵を描くのがいいリフレッシュになってありがたかった。

一度、表紙とソロインタビューの機会があって、その写真はHIROMIXさんにお願いしようとなり、場所は僕が当時住んでいた高円寺が選ばれました。初対面ながら楽しい雰囲気で撮影が進んでいき、どんどんノリノリになってしまって駅前ロータリーにある噴水にも着の身着のまま入っていってバシャバシャ泳ぎ、パシャパシャ撮ってもらいました。

 

後日、形になった紙面をみると、噴水の一枚が表紙に。

噴水と滝。こうしてみると、以前も今もやっていることが変わっていないのではないか。

そう思いました。

 

 

***

 

ときはくだって2019年。のちに僕の本を出してくれることになるミシマ社の代表、三島邦弘さんから突如として「周防大島プロジェクト始動します」というメールをいただいた。よく聞いてみると、「周防大島の地図を作りましょう」ということを、寄藤文平さんとの話のなかで盛り上がったとのこと。寄藤さんといえば、あまたの名著の装丁を手掛けるデザイナー・イラストレーターさんであり、僕はパンとビールの店タルマーリー・渡邉格さんの「腐る経済」(講談社)にとても感銘を受けていた。その後「菌の声を聴け」(ミシマ社)という本も出版されるのですが、それらのブックデザインも担当されている。ちなみにのちに出会った渡邉格さんは、スターリンなどを愛聴していた方だと知ることになります。

 

そんなすごいデザイナーの寄藤文平さんが、ミシマ社と一緒に周防大島の地図を作る。

そんなことができるなんてすごい。ぜひ、と思っていたら「ついては周防大島で立ち上げのワークショップをやりましょう」となり、その春に三島さん、寄藤さんたちが来島することになりました。

 

ここから文脈がどんどん錯綜してくるので、しっかりついてきてください。

 

2019年の同じころ、僕が島に来てから出会った、京都で数学をベースに研究活動と「数学の演奏会」というライブ活動を続ける独立研究者の森田真生さんから「周防大島でライブを」という提案をいただいていた。今までも一緒に毎年ライブを作ってきていたので「もちろんです」ということで準備していくことになる。実はそのテーマは森田さんの「数学の贈り物」という著書の発売記念を兼ねたトークライブで、その本の版元がミシマ社で、デザインが寄藤さん。そのライブのタイトルは「偶然の宴」と決まった。

 

 

双方から別々の「周防大島で」の提案をいただき、同じ日・同じ会場でライブ「偶然の宴」&地図作りワークショップ「おお!すおうおおしま」を行おうとなった。場所は周防大島で立ち上ったマーケット、「島のむらマルシェ」の会場。

 

この当日は、予想を超えて大変盛り上がりました。森田さんの話を受けて、寄藤さんと会場の参加者のみなさんで新しいキャラクターが生まれていき、「偶然性たろ」というキャラも誕生。オールイラストで作る、周防大島のMAPの想像がどんどん高まっていく。

 

その翌日は今回初めてお会いした寄藤文平さんと、周防大島の人気店、アロハオレンジで食事をしていた。無事ワークショップも終わり、ゆったりまったりとした昼食。余韻に浸りながらこれまでのことなどを雑談していた。

 

その際、僕は「風とロック」という雑誌でイラストの連載をしていたことをお話すると、「僕は風とロックのデザインやっていましたよ」とおっしゃった。

!!!

そうか。今回の地図作りの資料のなかで、「大人たばこ養成講座」のイラストを送っていただいていたのだけど、まさにそれは風とロックで連載されていたのでした。見たことあると思ってたけど、ここだった。すでに、出会っていたのでした。

(寄藤さんによる「大人たばこ養成講座」)

(↑中村のページ・「風とロック」チャットモンチー特集号)

 

出会っていた、むしろデザインに携わっている寄藤さんのホームにおじゃましていた、ということに気づきました。

 

時はさらにくだって、2022年春です。

3年を経て、今度は森田真生さんから「キセルの辻村さんとライブを」一緒に作りましょうという提案をいただきました。このステレオレコーズコラムの前回で触れたライブ。

打ち合わせを経たのち、タイトルは「偶然と音楽」と決まりました。

 

その準備をしている最中、今度は三島さんから「周防大島プロジェクト、始動します」という連絡が入る。

 

なぜ同じタイミング!

 

ついては「周防大島に来島して取材」されたい、と。

 

3年越しに!

 

これには驚きました。さっそく両方とも準備していく。

しかもよくよく聞いていると、森田さんの著書がミシマ社から発刊される準備中といいます。

タイトルは「偶然の散歩」。しかも、デザインは寄藤文平さん、と。

三島さん、森田さん、寄藤さんが動く2022年。

 

こ、これは……

 

2022年5月「おお!すおうおおしまMAP」取材

2022年6月「偶然と音楽」→延期して、

2022年9月「偶然の散歩」発売

2022年10月・ライブ「偶然と音楽」開催

そして直近、

2022年11月「おお!すおうおおしまMAP」制作委員会発足

 

何がなんだか、とんでもないことが起こっている。

いま、MAPのスケッチがちょっとずつ送られてきています。ごれが想像が追いつかないほど最高で。毎回鳥肌が立っています。

 

誰に頼まれたわけでもなく、自発的に「作りたい」「作ろう」と始まるものほど力強いものはない。これはバンドでも同じで、原点中の原点ではないかという思いで高まっています。

 

(2022年5月の周防大島取材の一コマ・文平銀座の垣内さん)

 

まだ見ぬ自分たちの未来へ、どんどん近づいている。

そして喜びを胸に、また周防大島の滝に入っていく。かつての高円寺駅前のように。