スマホとぞうきん31


sumaho&zoukinmini

レーベル「DJMR」の最新タイトルは「きゅきゅきゅqtμt」。これは、
『qtμt』という知人が描いたマンガ作品のサウンドトラックのデモ集。単行本の刊行イベントがあり、マンガ家兼音楽家として出演することになっていたので、少しでもイベントを盛り上げようと考えて制作。その作品がアニメ化されたわけではないけれど、そんな気分で架空のサントラを作り、その日その場所限定で発売したのだった。

イベント当日、会場でリュックを広げると自宅でせっせと焼いてパッケージしてきたCDRがない。うっかり全部を部屋に忘れてきてしまったのだ。一瞬途方にくれたが、会場を運営する会社の事務所を借り、その場でCDRを作ることにした。あらかじめクラウドに上げていた音源をダウンロードしCDRを焼かせてもらい、USBに入れてきたジャケットを印刷してパッケージ。スタッフの協力で、開場直前ギリギリに商品は間に合った。

企画が良かったのかCDRは即売り切れ。それを見越して、実は「ダウンロード版」も同時に制作していた。クラウドのURLを「DLコード」としてコピー用紙のジャケットの隅に付記。ジャケットのアルバムタイトルの横に「DL版」と明記し、値段は半額に設定。最後にコードが外側から見えないように畳み、おみくじのようにホッチキスで綴じた。結果としてこの「DL版」もよく売れた。

急遽制作した「DL版」は、要は「ホッチキスで綴じた紙」だ。そんな紙を音楽として売っている状況。レーベル運営という実験が、来るところまで来てしまったと感じた。この場にいる人間にしか通じない特殊な価値を造幣局のように刷り、それが紙幣として機能してしまったような感覚。音楽が何らかの形状を留める限界がここで、この先はもう虚無しかない、そんな気がして少し怖くなった。